自画像のゆくえ (光文社新書)

自画像のゆくえ (光文社新書) の詳細

ベラスケス作の「ラス・メニーナス」の新解釈が面白い。著者は「逆遠近法」を例示し、宮廷地下室で侍女など周辺に位置する宮廷人が画面前景に描かれ、彼らが椅子に腰かけた国王フェリペ4世を見ている絵を国王に頼まれて描いたという。国王は画面後方鏡に映って後方に小さく描かれている。なぜ、ベラスケスは画面前景中心に大きく描かれなかったのかという疑問が湧くであろう。王女マルガリータは侍女たちと同様に国王を見ているのは、常に侍女たちが、王女に仕えていたからである。このような解釈は面白いが、どう見ても画面後方に小さく描かれる国王フェリペ4世はこの絵を見て果たして満足したのであろうか？フーコーは『言葉と物』において序論でこの作品を取り上げ、見るものと描く者の視差を構造的に分析した。この絵を鑑賞する者は前景に描かれた王女マルガリータと彼女に仕える侍女たちを見るが、作者ベラスケスは鏡に小さく映る後方の国王を描いた。そして王女と画家、侍女たちも皆国王を見ている。登場人物たちは国王をみていたことを描いたのが作者ベラスケスの意図であり、鑑賞者には簡単に分からないようにさりげなく主題の国王を描いた、というのがフーコーの構造主義的解釈である。両者の視差を構造主義的に読み解いたのがフーコーであった。フーコーに軍配が上がるように思われる。画家と鑑賞者の視差こそ、この絵画を読みと解くポイントである。実に面白い。新解釈が満載の本書を楽しみたい。お勧めの一冊だ。