ひとりで学ぶ刑法

ひとりで学ぶ刑法 の詳細

【付補記版】学界でも著名な三先生の最新の共著で，小生が言うのもおこがましいが，全体的に充実した立派な内容とお見受けする（デザイン・装丁も魅力的）。たとえば，刑法の重要論点の代表的なものの一つは，正当防衛・過剰防衛・誤想防衛とその周辺であるが（思考力を試すのに格好），本書の説明は実に行き届いている（6頁，11頁以下，228頁以下，241頁以下，253頁以下，321頁以下，331頁）。また，やはり重要論点の「実行の着手」についての説明も，重みがある（337頁以下。なお，324頁以下，376頁以下）。さらに，頻出の「共犯」の中でも格別重要な「共謀共同正犯」の要点も簡潔に示され（53頁以下。なお，64頁以下，372頁以下），同じく頻出の「財産犯」領域における中核的かつ多義的な「占有」概念についても，鋭く周到な説明がなされている（176頁以下。なお，274頁以下，278頁以下，296頁以下，310頁以下，390頁以下）。（1）共著者中，島田聡一郎先生は惜しくも夭折されており，本書は同先生の遺著でもある。最近の若い皆さんの中には，島田先生のことを余り知っていない人も結構いようが，学界の中心人物になりつつあった伝説的な逸材で，かつ，お父上は東大等の名誉教授（英米文学），叔父は元最高裁長官（そこまでの経歴も抜群），もう一人の叔父も大学教授（素粒子論など物理学）という凄い家系でもあるが（お母上にも恵まれたものと拝察される），偉ぶったところは皆無で，親切な方でもあり，とても人気があった。（2）ただ，島田先生の演習本としては，別に，既に定評があり，ご自身主著の一つとしておられた，小林憲太郎氏との共著『事例から刑法を考える〔第3版〕』があることにも，注意したい。また，安田拓人・和田俊憲の両氏も分担執筆の──他にも，極めて優れた実務家・学者が分担執筆の──，解答例も付け，楽しめるようにも工夫を凝らした演習本として，只木誠編著『刑法演習ノート・・・刑法を楽しむ21問』も存在する。これらの2書も，（餓死しない程度に）食生活を切り詰めても買う価値は（司法試験受験を考えているなら）十二分にある（なお，他にも演習本はあるが，ここでは割愛させて頂く）。（3）が，刑法の演習本を（当面）一冊と思っている人には，悩ましいところもあろう。本屋さんで見比べて選ぶのも一案ながら，前記（2）で挙げた2書が司法試験受験生向き，それも「臨戦態勢」構築向きなのと対比すると，本書は基本的に，現在はまだ，学部段階またはロースクール未修（一年次生）段階にある人に一番向いているといえよう。というのは，書きぶり等も理由だが，本書で扱う合計34個の事例問題は3ステージに分かれており，基礎編ともいうべき第1ステージが20問と最多で，中級ともいえる第2ステージが11問，上級の第3ステージが3問，という構成だからである。「はしがき」中でも，「とくに第1ステージでは，共著者3人のこれまでの研究・教育の成果すべてを投入し，幾つかの新機軸を打ち出している。」と，第1ステージ充実を謳う（必ずしも誇大宣伝ではない感も）。意外と内容豊富な第1ステージから，じっくりと勉強していけば，中級を経て，めでたく上級・合格（も視野）レベル，という訳である（女性に現〔うつつ〕を抜かし，じっくりと勉強しない人などは，保証の対象外となろう。男にのぼせ現を抜かす方は稀のように見受けられる）。（4）司法試験合格を目指す場合には，少人数で組むゼミも，できる先輩等に恵まれれば，悪くなかろうが，実力養成の基本はやはり，黙々と「ひとりで」学ぶことだろう（その意義・大切さについては，「あとがき」参照）。ただし，様々な演習問題に系統的に取り組む前に，前提として，先ずは，各自の基本書を（書いてある様々なことが，すっかり頭に入るまで）繰り返し読む──なお，授業のある人は，これも原則さぼらない──ことが，先輩合格者達のアドバイスや自身の経験に照らしても，お薦めである（「はしがき」冒頭でも，やや類似のことが前提とされている）。（5）以上は，司法試験合格（他人・社会にも役立つ法曹等）を目指す方々を主に念頭に置いたものであるが，弁護士の増加・「魅力低下」などもあり熟慮も必要で，まだ司法試験受験を決めてはいない人や，司法試験を受ける気は全くない人で，法学部等で刑法の知識もちゃんと身に付け，良好な成績は取りたいと考えている多くの皆さんにも，本書が役立つことは無論である（他方，前記（2）で挙げた2書は，司法試験を受ける気のない人には向くまい）。【補記】本レビュー投稿後直にこれをともかく読んでくれる諸賢が続くのは有り難いことで，感謝します。ただ，中には「参考にならなかった」旨のコメントを寄せられる方も（これまで）少なくないのは（あるいは，その尊敬する先生執筆の他の本の方をひいきにしたいのか，と推察しないでもありませんし，小生も本書や掲記2書「のみ」が良い本だなどと主張するつもりは無論毛頭ありませんが），さしあたり，十分に理解することができません。その旨を特に表明される方には，できれば，具体的に，本レビュー中のどの点が誤り・不正確・不適切である，あるいは信用できない，等とお考えなのか，をも教えてくれるような，これこそ妥当なものだという御自身のレビューを（比較的簡潔なものでも）出されることを希望させて頂きます（2016/2/14）。